隣のおっちゃん
こんにちは。お元気でいらっしゃいますか? 厳しい寒さが続きますが、心がぽおっと温かくなる話をひとつ。昨年の12月初旬のある居酒屋でのワンシーン。 「よくここまで頑張って育ててきたねぇ〜。ホンマにすごいと思うわぁ〜。 女手一つでいろいろあったと思うけど、再婚もせずに・・・。今日はその慰労と祝杯やぁ、乾杯!」 そう言い合って、お互いの目を見つめ合いながら、ささやかな2人だけの祝杯をあげました。 ちょっと怪しい光景?イヤイヤ違うんです。 彼女の名前は前川亜矢子さん。 もうすぐ卒業を迎える大学4年の立派な息子さんがいる素敵な女性です。 みんなから亜矢ちゃんと呼ばれているこの女性は、実は10数年近く前に未亡人となりました。亡くした夫の名前は前川武弘(たけひろ)さん。 同じ兵庫県の伊丹出身で、帰り道も一緒だったりしたことから、彼とは他の同期のメンバーとはまた違った間柄でした。お互いに余りベラベラしゃべる方ではなく、何か感じることがあったら、ボソッと面白いことを言い合ったり、真剣な話をし合ったりしていました。「最近チームの雰囲気悪いなぁ~」「ボクらがもっと本気で出してやらんと、やっぱりあかんのんちゃうかぁ〜」「ほんまやなぁ、やっぱり関学は4年がどれだけアホになって引っぱっていくかしかないでぇ〜」「明日から空気変えよっ」「よっしゃ、そうしよ、そうしよ」 こんな会話を何度も彼と語りながら、時には逃げだしたくなるような練習や合宿を乗り越えて、私達は、最終ゴールである大学日本一決定戦甲子園ボウルに出場し、そこで勝つことを目標に日々切磋琢磨し合っていました。
そんな青春のページを共に記録し合った武ちゃんでしたが、卒業後十数年して、恐ろしい難病を患うことになりました。筋肉が時間と共に萎縮して、全身が痩せ衰え、様々な部位が機能不全となり死に至るという壮絶な病でした。 そんな過酷な宿命を武ちゃんは愚痴ひとつ言わず、粛々と受け入れ、日頃と変わらなくボソッと面白いことを言い、後輩からもイジられ、愛され、慕われ、誰にでも優しく温かい武ちゃんで居続けてくれました。 会うたびに痩せ細っていく武ちゃんを前にして、こちらが言葉につまるような状況でも、「変に気を使わんといてやぁ、いつも通りでいいでぇ〜」と、あのいぶし銀の笑顔を普段通りにみんなに振りまいていました。 実はそんな彼には、一粒種の貴史(たかし)君という男の子がいました。彼が亡くなった時には小学5年生のサッカー好きのかわいい男の子でした。一人息子ゆえ、目に入れても痛くない子供だったと思いますが、生前は甘やかすことなく、大切に育てていました。 貴史君にとっては、私達がお父さんの代わりになる「隣のおっちゃん的な存在」になっていたのかもしれません。 細身であった体もみるみるうちに大きく立派になって、お父さんそっくりなっていったのは、言うまでもありません。私達にとってもそれはとても楽しみな成長でした。
そうして数年。時は昨年の12月16日の甲子園ボウルの日。亜矢ちゃんから嬉しいメールが届きました。 私は大粒の涙をこらえるのに必死でした。 「貴史君、ホンマにありがとう。立派になったなぁ、感動したわぁ。 少し落ち着いたら、私は彼と二人でじっくり酒を酌み交わしながら、こんな話を語り合いたいと思っています。やっぱり、仲間、スポーツってホンマにいいですね。 合掌 |
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●追伸 その後、1月3日に東京ドームにて、学生日本一の関学大と社会人の日本一オービックシーガルズ(こちらも私の出身チームです)との真の日本一決定戦がありました。残念ながらラスト30秒で大逆転され敗れましたが、見事な戦いぶりでした。本当に貴史君を始めとする4年生もよく頑春ってくれました。たくさんの感動や勇気を逆にいっぱいもらいました。大感謝 |